近況報告『周礼』冬官から見る武器の柄の管理

はじめに

今回も、御絵描きと妄想の回。
武器の柄についての御話です。

図解を描くのは元より、

具体的な
武器の管理その他についての
史料を探すのに
思いの他、
時間が掛かりまして、

まあ、思ったようには
巧くいかんものだと思います。

当初の目的である
「盧人為盧器」
書き下しに手が届くのは
いつのことかしらん。

1、柄の品質管理

早速ですが、
まずは図解を御覧下さい。

『周礼』(維基文庫)、『周礼注疏』(国学導航)、戸川芳郎監修『全訳 漢辞海』第4版等(敬称略・順不同)より作成。

例によって、

イメージの足しと言いますか、
御参考程度
御願い出来れば幸いです。

要は、現在で言えば、
器具の出荷前の品質管理や
配備後の点検の話かと
思います。

『周礼』冬官の原文によれば、
その具体的な目的は、

1、しない具合、
2、曲がり
3、強度

この3点の確認にあります。

その手順については、
『周礼注疏』や、
同書に引用のある『釈名』
参考にしました。

例えば、『周礼注疏』には、

柄の曲がりの矯正について、
以下の文言があります。

以柱両墻之間、輓而内之、
本末勝負可知也

墻:障壁、囲い、
輓:引っ張る
本末:根本とこずえ

柱をもって
両墻(しょう)の間とし、
輓(ひ)いてこれを内にし、
本末勝負を知るべきなり。

少々補足します。

残念ながら、
柱の立て方は
サイト制作者には
分かりません。

現在の材木の曲がりの
矯正方法も
少し検索しましたが、

その限りでは、

水を含ませる等、
当時とは方法が異なる模様。

不勉強で恐縮です。

また、最後の「本末勝負」は、

柄の上下のどちらが
曲がりが大きいか
確認せよ、

という話だと思います。

因みに、『周礼』の原文には、

この部分については、

図解にある文言の通り、
「諸墻を灸し」とあります。

少しややこしいのですが、

サイト制作者は、
原文の「墻」は障壁≒障害、
ここでは曲がりを意味し、

それを「灸す」=弊害を除く、
つまり、曲がりを矯正する、
と、取ります。

その他、生木から削り出す場合は、
小枝を落としたり
腐食部分を除いたりする作業も
含まれることでしょう。

人力で1本1本やると、
結構手間です、コレ。

さらに、時代が下れば、
生木どころか
他人様の墓の塚を失敬した、
と、話す御仁もいまして、

文言が彫られた部分も
バッサリ切除したのかしら。

それはともかく、

ここまでを整理すると、

『周礼』原文の「墻」は、
障壁や弊害、

『周礼注疏』の「墻」は、
2本の柱を、

それぞれ意味します。

次いで、

柄の強弱を試す際、

膝の上に載せる、
というのも、

『周礼注疏』にある文言を
図解したものです。

横而揺之、
謂横置於膝上、
以一手執一頭揺之、
以視其堅勁以否也

勁:直立して強い様
視:確認する

横にしてこれを揺らすは
横にして膝上に置くをいい、
もって一に手で執り
一に頭でこれを揺らし、
もってその堅勁と否とを
視るなり。

例によって
怪しい書き下しですが、
意味は通じると信じます。

膝の上に載せて手に取り、
次いで頭上で揺らして
曲がりや強度を試しなさい、

という御話。

因みに、最後の行の「以」は、
座右の字引きによれば、

用例のひとつに
「与」(と)と同じ、
というものがありました。

で、サイト制作者が
腹が立ったのは、

この注疏には、

これらの話について
「釈曰」とありながら、

原典の『釈名』には
その件がないと来まして。
(あるいは欠けているか)

同書の「釈兵」以外にも
それらしい部分を
色々探したのですが、

結局、見つけられず終い。

とはいえ、
この『周礼注疏』にある
柄の扱いについては、

サイト制作者としては、

今のところ、
間違いであると
否定する材料もないので、

こういうものかしら、と
図解に至った次第。

少なくとも、

注疏のかなりの部分が
書かれた後漢時代当時は
このやり方であった、

あるいは、
古法はこのようであった、で、
話が通じたのではないかと
思います。

その意味では、

少々夢のある話をすれば、

例えば、
張飛や程普が
振り回した矛なんか、

こういう検査を受けた可能性が
ありそうなもので。

さらに妄想を逞しくすれば、

測定に計器が不要な点や、

後漢時代に入っても
時の軍人や知識人が
『周礼』の他、
それまでの時代の兵法書を
相当意識している様子を見ると、

サイト制作者の
愚見としては、

こういう簡便な方法は
古来から変わっていないように
思いますが、

さすがに、
それを証明することは
出来ていませんので、
ここらで御容赦下さい。

2、春秋時代における
戦時の武器修理の光景

さて、柄の扱いの話について、
もう少し掘り下げて
考えてみようと思います。

とは言っても、
柄の扱いそのものの話は
中々見当たらないのですが、

その周辺領域と言いますか、

平時の武器の管理にまで
話を広げると、

例えば、春秋時代に限ってすら、
管理体制から
担当の官職等にまで及び、

ここで枝葉の話として扱うには
収拾が付かなくなることで、

後日、その概要を
整理するとして、

ここでは、
戦時の差し迫った折の用例
ひとつ挙げるに止めます。

時は春秋時代後半の
成公十六(前575)年6月、

晋楚の数々の決戦のひとつの
鄢陵(現・河南省許昌市)
の戦いの折の御話です。

御周知の通り、
自ら出撃した楚王の共王が
目に矢を受けるレベルの激戦。

さらには、
『春秋左氏伝』の
この戦いにおける件は、

戦闘の前の経緯も含めて、
弓合戦の名場面としての見所や
戦争の考証について
学ぶところの
非常に多い部分ですが、
(和訳様様で御座います。)

今回の引用は、
その中でも、残念ながら、

目下の戦闘が一段落した後で
戦力を整備するという、

地味な箇所です。

子反命軍吏察夷傷、
補卒乗、繕甲兵、展車馬、
雞鳴而食、
唯命是听
晋人患之
苗賁皇徇曰
蒐乗補卒、秣馬利兵、
修陣固列、蓐食申祷、
明日复戦
乃逸楚囚

子反:楚の公子側
察:調査する
夷傷:負傷者
卒乗:ここでは戦車兵か?
甲兵:鎧と武器
展:並べる(=陳・陣)
鶏鳴:夜明け
听:口を開けて笑う
苗賁皇:楚の王族で、晋に亡命。
徇:見回る
蒐乗:兵車を調べる
なお、「蒐」は集める、
調べる、検閲する等の意。
利:鋭くする
修:直す、繕う
蓐:豊かで飽き足りる
申:声を長く伸ばす
祷:祈りの言葉
复:また
囚:捕虜

子反軍吏をして
夷傷を察(み)せしめ、
卒乗を補い、甲兵を繕い、
車馬を並べ、
雞鳴にて食し、
ただここに听(わら)わしむ。
晋人これに患う。
苗賁皇徇(めぐ)りていわく、
蒐乗し卒を補い、
馬を秣(まぐさか)い、
兵を利(と)くし、
陣を修め列を固くし、
食を蓐くし
祷(いの)りを申(うた)い、
明日また戦わん。
すなわち楚囚を逸す。

まず、軍吏が死傷者を数え、
そのうえで、
戦車にしかるべき兵員を充当し、

さらには、鎧や武器を修理し、
馬に飼料を与え、
兵士には朝食を
しっかり取らせ、

締めの手順として、
今で言うところの
神事を行う、

ですが、最後の行だけは
情報戦の一幕で御座い、と、

ハーフタイムの
慌ただしい様子が
色々と記されていますが、

サイト制作者は、

何も決戦に限らず、

人数規模の大小を問わずに行う
戦闘終了時の
事務的な作業手順
見ています。

念の為、確認しましたが、

『春秋穀梁伝』や
『春秋公羊伝』の
成公十六年の記述には
詳しい話はありませんで、

こちらは
空振りに終わったと
言うべきか。

3、武器の修理の肝

因みに、武器の修理については、

上記の引用には
「甲兵を繕い」、
「兵を利(と)くし」、

と、ありますが、

『管子』「問第二十四」にも
以下のような件があります。

斉が臓器売買に手を出した、
という類の内容ではありません、
―何の話か。

疏蔵器弓弩之張、
衣夾鋏鉤弦之造、
戈戟之緊、
其厲何若

器:用具
ニュアンスとして、
用途が決まっていて
融通が効かないものの例え。
疏:軽視する、卑しむ
夾:合わせの着物
造:製作する
鋏鉤:ここでは剣と戈か?
なお、「鋏」は鋳物につかう
かなばさみ、
「鉤」は鍵の意
緊:ぴんと張った様
厲:磨いて鋭くする

器を蔵(おさ)むを疏むは
弓弩の張、
衣夾鋏鉤は弦の造、
戈戟の緊、
それを厲(と)ぐに
いかんせん。

サイト制作者の読み方が
間違っていなければ、

武器や軍服の
保管・製造・整備は、

弓の構造に例えて
三位一体である、
としています。

ここで注目したいのは、
「厲」という言葉。

先述の
成公十六年の引用における
「兵を利し」と同じく、

兵器の整備・修理の肝が
刃先を研ぐことにある、

ということが
言えるかと思います。

今回の御題で言えば、
柄の管理よりも優先される
ということかと思います。

なお、この
『管子』「問第二十四」は、

軍備や
もう少しテクニカルな
戦備を含めた
国力の指標となる項目の
チェック・リストといった
部分でして、

当時の社会構造を
垣間見ることの出来る
非常に興味深い部分です。

後日、軍備の部分だけでも
もう少し詳しく
触れたいと思います。

おわりに

そろそろ、
例によって
要点を纏めようと思います。

1、『周礼』冬官によれば、
武器の柄の点検の目的は、
しない具合、曲がり、強度の
確認にある。

2、後世の注によれば、
点検は五体で行うことが出来る。

3、武器の修理は
戦闘ごとに行う必要があり、
重点が置かれているのは
金属部分の損耗の修復である。

【主要参考文献】(敬称略・順不同)
『周礼』(維基文庫)
小倉芳彦訳『春秋左氏伝』各巻
杜預『春秋経伝集解』
(上海古籍出版社)各巻
鄭玄・賈公彦『周礼注疏』(国学導航)
『管子』(維基文庫)
楊泓『中国古兵器論叢』
陳寿・裴松之注 今鷹真・井波律子他訳
『正史 三国志』各巻
戸川芳郎監修『全訳 漢辞海』第4版

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