近況報告 『周礼』冬官考工記の定める戟体・戈頭の規格

今回は御絵描きと妄想話の回で
御座います。

最早、このサイトの宿痾
大変恐縮ですが、

記事のための
図解の作成に
手間と時間が掛かることで、

今のところ、

取り敢えず、
記事のための図解が出来次第、
その都度開陳することに
しています。

さて、『周礼』冬官考工記の
武器に関する件について
読み進めてみよう、

―という目的で
調べ事を進める過程で、

(サイト制作者としては)
思わぬことに気付きまして。

で、それまで
書き進めていた記事を
大幅に書き換えるよりも、

まずは、その「発見」を
図解した方が
読者の皆様にとっては
面白いかと思った次第。

それでは、以下のアレな図を
御覧下さい。

あくまで
サイト制作者の(妄)説、
という扱いで
御願いしたいのですが、

これは、要は、

西周時代の出土品の形が
『周礼』冬官考工記の定める
戟体の規格にほぼ準拠している、

ということを
意味するものです。

これに因みまして、

『周礼』各官の成立時期には
諸説あるのですが、

この戈頭・戟体の
規格については、

形状は元より
各部位の大きさが
周尺でほぼ符号することで、

今のところ、

サイト制作者としては
西周時代のものではないか
考えています。

次いで、図解作成の手順は以下。

楊泓先生の
『中国古兵器論叢』にある
10cm:3.1cmの縮図
要所要所で座標を取り、

それを一定の縮小率で
別氏に書き写し、
さらにそれらの座標を
直線と曲線で結ぶ、
というレトロな方法ですが、

座標が基準につき、
参考文献の縮図との
cm単位の大きなズレは
ないものと信じます。

さらに、補足として、
諸文献の出土品の
縮図や写真にある
破損個所や欠損部分は、

図の意図を優先して
形状を分かり易くするために
省略しました。
(裏目に出ていないことを
祈ります。)

2種類の戟の縮図
楊泓先生の『中国古兵器論叢』
に掲載されているものの模写で、

メインの戟体には、
全体的に浅い刃毀れ
あります。

春秋時代の戈の写真は
稲畑耕一郎先生の
『図説 中国文明史』3より。

援の先端が少し欠けています。

さて、当該の箇所の
書き下し文や諸々の説明は、

近いうちに
別の記事で行うこととして、

今回は、
それに気付いた過程について
少し触れます。

まず、恥ずかしながら、

サイト制作者の固定観念
戈や戟の形状を、

春秋時代以降の
割合整ったものが
スタンダードだと
思っておりました。

その結果、

件の『周礼』の規格で考えると、

春秋時代のものを基準に
援・内・胡といった
各部位の大きさだけ
見ていても、

先に開陳した図解の
ズングリしたものに
行きつく他はなく、
(当然、違和感は感じましたが)

―以下の図ですが、

『周礼』(維基文庫)、『周礼注疏』(国学導航)、伯仲編著『図説 中国の伝統武器』、戸川芳郎監修『全訳 漢辞海』第4版等より作成。

果たして、符号する出土品なんぞ
ありませんで。

では、規格にある形状は
と言えば、

これも、
例えば、内が曲がる等、

サイト制作者基準の
よがった「標準」からすれば
どうも懸け離れており、

『周礼』冬官考工記の定める規格の
真意を掴みかねておりました。

正直なところ、

直訳で御茶を濁そうかと
腹を括りもしました。

ですが、その前に、
今一度、

楊泓先生の
『中国古兵器論叢』の縮図
古いものから一通り見返して、

『周礼』冬官の定める規格と
符号するものがあるのかどうか
確認しようと思いまして、

この最後の賭けが、
恐らくは、当たってくれた、
という次第。

で、その結果、
結構な数の縮図の中でも、

一番奇怪な形のものが
一番イイ線行っているという、

推理小説の犯人捜しのような
イカレたオチでありました。

もっとも、この世紀のナゾナゾ、

むこうの識者
恐らく、大変な苦労
されているようで、

例えば、楊泓先生は、

戴震『考工記図』戈戟の
図解を引用して
「与古代的実物有較大的差异」
―出土品と大きく異なる、

としていまして、
(事実、
「コレジャナイ!」です。)

『周礼疏注』も、
鄭玄の説明だと思うのですが、

部位ではなく
突き方や傷の形の話
していまして、

それでも、サイト制作者も、
最初は、それっぽい、と、
思いました。

余談ながら、内容とは別に、

戈や戟を人に打ち込む際の
「以て人を啄(ついば)む」
というエグい表現が、
個人的にはツボっております。
―巧いこと言うなあ、と。

(因みに、この書物からは、
学ぶことが多かった半面、
この箇所以外にも、
ケムに巻かれている!
と、思しき部分が
少なからずあります。
漢代との時代感覚の断絶を
少なからず感じます。)

まあその、
どこかで見たクイズ番組宜しく、

(恐らくは)実物を見ずに
当時の戈や戟の形で
想像して正解を出せ、

という方に
無理があるのかも
しれません。

【追記】

で、令和の御代にも、

実物の縮図を見てすら
暫くそれと気付かなかった
素人の間抜けが約1名、と。

謂わば、後出しジャンケンで
負けるような
情けなさ。

先人の苦労を嘲笑う資格など
断じてありません。

それでは、まずは、
あまり有益とは言えない
個人的な失敗談迄。
【了】

【追記】

やっぱりなあ、
無知は怖いなあ、
恥ずかしいなあ、
と、言いますか、
(それを気にしたら
そもそも、こんなサイト
やってられん部分もあるですが)

今回の記事のようなことを
100年以上も前に
かなり詳細な図解のレベルで
なさっている知識人が
少なくとも何名かは
いらっしゃいまして、

その話を少々。

周緯先生『中国兵器史稿』
パラパラめくってますと、

例えば、

陳澧の『考工記周戟図』
から引用した「周戟図」や
『東塾集』の「戟戈図説」
といった、
戈戟の部位ごとの解説や、

程瑤田の『考工創物小記』の
「倨句」の角度の表、
といったものが
掲載されています。

サイト制作者は、
恥ずかしながら
初耳でありまして。

で、一見した限りでは
納得出来ない部分も
あるものの、

原文や小難しい注釈の
読み方等の見地からは
色々考えさせられる
ものでもあり。

一方で、
刊行年度が古いだけに、

例えば、
楊泓先生の『中国古兵器論叢』
に比べれば、
出土品の詳細が
不明瞭だったりしますが、

全体的な内容としては、

図録が豊富で
漢籍の内容と出土品の比較が
なされている
しっかりした内容だと
思います。

また、入手についても、

複数の出版社からの再版
という事情を反映してか、

書名で検索を掛ける等して、

ネット経由で
日本の本屋さんから
割合簡単に入手出来ます。
(少し値は張りますが。)

語学に覚えがあり、
中国の冷兵器に興味のある方は
御一読を。

因みに、サイト制作者が
買ったのものは
中華書局さんの簡体字のやつ。

残念ながら、

サイト制作者の拙い語学力では
一息に読み切ることは
出来ませんが、

記事の内容に応じて、

漸次、御本の内容を
少しずつ反映させていければと
思っております。

【了】

【主要参考文献】(敬称略・順不同)
『周礼』(維基文庫)
『周礼注疏』(国学導航)
楊泓『中国古兵器論叢』
稲畑耕一郎監修『図説 中国文明史』3
伯仲編著『図説 中国の伝統武器』
戸川芳郎監修『全訳 漢辞海』第4版

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