【追記】21年12月9日
こういう記事
書いといて何ですが、
再度の改訂です。
記事本文の図解との
変更点は、
以下の2点。
1、柄の太さが上下で同じ。
2、中段右の図解の説明等を
内容に合わせて変更。
度々恐縮です。
【追記・了】
はじめに
今回から何回かは、
先の記事の訂正を
行います。
中々、次の話に
移ることが出来ない
もどかしさを
感じる次第ですが、
足場を固めずに
それをやるのも
コワいことで、
まずは、誤読の後始末を
行います。
その手始めとして、
殳の図解を描き直します。
もっとも、
それ以外では
無駄な話の多い回につき、
予め断っておきます。
1、重要部分を覆う「囲」
早速ですが、
殳の図解の改訂したものを
見てみましょう。
80年代の現代語訳を
参考にする分には、
ほぼほぼ『周礼注疏』に
準拠しているように
見受けますので、
サイト制作者も
これを受けて
描き直しました。
ここまで時代が下ると、
相当数の出土品との比較が
出来ているためです。
サイト制作者も
始めから
そうすれば良かったと
後悔していますが、
その辺りの
やっちゃった過程の話は
後述します。
さて、先の回の誤読の
一番大きな誤りである
「囲」の解釈ですが、
囲とは、要は、
武器の主要な部位―
先端・取っ手・末端の石突、
この3つを
何等かのかたちで
コーティングしたものです。
で、先端の部位は、
殳は「首囲」、矛は「刺囲」、
と、なります。
取っ手は、
そのままの「囲」。
さらに、末端の石突は
「晋囲」。
図解にある
「細いタイプ」というのは、
長沙市の瀏城橋より
出土した
戦国時代(前4世紀)の
戈の末端に
付いているものです。
現物の模写は、以下。
先の記事で掲載したものの
誤記を訂正しました。
晋囲に相当するとはいえ、
字義からすれば
「囲」ではなく、
さらには、
丈もかなり短く
全長の15分の1程度。
時代が下ると
このように
コンパクトに変遷する、
ということなのかも
しれません。
2、柄の硬さと断面のかたち
その他、
「撃兵同強」は、
『周礼注疏』によれば、
「同(とも)に強(はげ)む」
ではなく、
「素直に強きを同じくし、」
と、やるのが正しいか。
で、問題なのは、
何の「強」を同じくするか、
ですが、
これは、
柄の先端と末端の強度
の模様。
因みに、
先端と末端の強度が
異なるのは戈。
戈は柄の後方部分が硬く、
その理由として、
「向後牽之」
後ろに向かいこれを牽く、
と、しています。
因みに、
矛については、その逆、
即ち柄の前方部分が硬く、
その理由として、
「向前推之」
前に向かいこれを推す、
と、しており、
肝心の「考工記」にある、
「刺兵同強」
刺兵強きを同じくす、
と、矛盾しています。
で、この『周礼注疏』は、
この辺りの理屈については
『釈明』を典拠と
しているので、
『釈明』の中で
関係ありそうな
「釈兵」は元より、
「釈用器」、
船、車、楽器、と、
当たりましたが、
それらしいものは
ありませんで、
何を「釈曰」だか
分からず
困ったもの。
その他、殳の囲―取っ手は
細いのが望ましく、
断面の形は円形。
細い方が
早く振れるのが
その理由。
もっとも、
断面の形が円形、
というのは、
「考工記」には
直接書かれてはおらず、
『周礼注疏』のみの言及と
なっています。
断面の形や
囲の太さ等については、
矛や戈の図解を
描き直した折にでも、
再度触れようと思います。
3、首囲の規格と実物
「首囲」そのものについて。
これについては
肝心の出土品の大きさが
分からないので
大きな話は
出来ないのですが、
「考工記」の説く長さを
再計算し、
それと
春秋時代の出土品の一例と
比べる限り、
前者は、23cm余、
後者は、一例のみながら
半分以下の9cm余と、
かなりのズレが
あるように思います。
参考までに、
以前の記事で触れましたが、
西周時代の戟体の
出土品の中には、
形状は「考工記」の定める
規格そのもので、
細かい部位も
差異が1cmを切るものが
ありました。
【雑談】殳の首囲の重さの話
参考までに、
以下は、まあ、
妄想めいた雑談につき、
適当に読み飛ばされたく。
さて、「考工記」の定める
殳の首囲の重さと
件の実例の差異が
大体どれ位かについて、
後者の実物の
断面図の面積をベースに、
計算してみようと思います。
かなり乱暴な計算ですが、
以下。
銅の比重は
1cm3(立法cm)当たり
8.96gですが、
概数で9gとします。
次に、件の出土品の体積を、
半径5cm・円周率3.14、
高さ9cmの円柱として
計算します。
5×5×3.14×9÷3
=235.5cm3
この体積に比重を掛けると、
2119.5g、
2.1kg程度。
次に、「考工記」の
それですが、
同じ面積に対して
高さを概数で
23cmとします。
≒601.8cm3
で、同じく比重9gで
銅の重さに換算すると、
5416.2g。
5.4kg程度。
厳密には、
実物は短半径が5cmの
かなり緩い楕円につき、
もう少し重いかと
思いますが。
(写真の角度の関係で
長半径が分かりませんで)
感覚的に
重さが実感しづらい、
という方は、
スーパーで売っている
米袋を御想像下さい。
2000円程度で
一番売れてるものが
5kgのもの。
それより少々小振りで
1000円程度のものが
2kgのもの。
要は、この違いです。
結構な差だと思います。
で、少なくとも
戦国時代になると、
末端の兵卒も
殳を手にするように
なりますが、
「考工記」の規格よりは
軽めのものではないかと
想像します。
つまるところ、
ああしたものが、大体、
「考工記」や実物の
首囲の重さである、
ということになります。
【追記】
今頃気が付いたのですが、
こういう場合、
重さが
足枷になるとすれば、
極端なことを言えば、
長さが倍=重量が倍、
というよりも、
重量を変えずに、
断面の面積を抑えた
細長い形状になる、
と、考える方が、
合理的ですね。
その意味では、
西周時代の殳の形状が
非常に気になるもので。
【追記・了】
因みに、
サイト制作者は
底辺のブルーワーカーで、
仕事柄、たまに、
銅の5kgのインゴットを
触るのですが、
現物の大きさは
「考工記」の規格より
もう少し細長いです。
投機は横行するわ
ドロボーさんは
方々に出没するわで、
kg単位の単価が
1000円を超えて
会社や現場は泣いてまして、
インゴットどころか
諸々の廃材から
手作業で搔き集める仕事も
増えました。
金属だけは払い下げない
秦漢の役人の気持ちが
少し理解出来た
ような・・・。
そういう
生臭い話はともかく、
ただ持ち上げるのであれば
ともかく、
崩れたものを
いくつも積み上げるとなると
結構な重労働。
あ、フォークで崩すのは
ワタシではないのですが、
んなことは
どうでも良いかしらん。
それはさておき、
まして、
2メートルの柄に挿して
振り回すともなれば、
余程足腰を鍛えて
『左伝』宜しく
肉を食べる生活でも
していなければ、
振り回すどころか、
逆に、体の方が
もっていかれると思います。
ああ、現代は肉ではなく、
プロテインか何かか。
で、薬局で
調達しようとして、
あるだけ下さいと言ったら、
店主がカードが使えないと
ノタマうので、
「ジャ、イ~デ」(以下省略)
4、誤読の経緯とその対策
(サイト制作者もそうですが)
特に、初心者の方々には
何かの御参考にでもなればと
思いまして、
誤読の原因についても
触れます。
一番の原因は
注釈の内容を
疑ったことですが、
この理由は、
「考工記」の
冶氏為殺矢の注の内容が
どうも腑に落ちなかった
ことで、
実は、これは今も
変わっていません。
ですが、
今にして思えば、
サイト制作者よりも
西周や春秋時代に
遥かに感覚が近い識者が、
戈頭の規格のような
細かい話はともかく、
武器の部位自体の解釈を
間違えるような
ヘマをすると思う方が
オカシイなあ、と。
謂わば、
素人が無手勝流で転ぶ
悪い見本か。
で、このリカバーに
大いに役に立ったのが、
実は、行動力のある
読者の方の
ファインプレー。
ベースは中文の訳と
思しき洋書を
御勧め頂いたことで、
残念ながら、
この御本には
経済的な理由で
―オカネがないので
手が出ないせよ、
本国の先生の現代語訳で
大体を意味を確認すれば、
分かりにくい言葉の意味に
当たりを付けることが出来、
差し当たって、
初歩的なミスを防ぐ確率は
上げられるのでは
なかろうか、
―ということを
思い付きました。
そこで、
近所の図書館の中では
この種の蔵書が豊富な
最寄の国立大学さんの
付属図書館のサイトで
蔵書検索を掛け、
(コロナの入場制限緩和と
入れ替わりで
付属図書館の繁忙期が来る
という不運!)
それっぽい安値のものを
古書で購入するに
至りました。
S様の努力に対して、
改めて御礼申し上げます。
その結果、
1980年代の段階、
つまり、出土品の調査や
当時に至るまでの
各種注釈の精査を
踏まえたうえで、
「考工記」の現代語訳が、
どうも、
原文以外では
『周礼注疏』の内容に
かなり準拠している
模様である、
と、いうことが
分かった次第です。
おわりに
なお、今回の記事については、
図解の多少の補足と無駄話が
中心となってしまったことで、
結論の整理は行いません。
悪しからず。
【主要参考文献】
『周礼』(維基文庫)
鄭玄・賈公彦
『周礼注疏』(国学導航)
聞人軍『考工記訳注』
小倉芳彦訳『春秋左氏伝』
(各巻)
楊泓『中国古兵器論叢』
稲畑耕一郎監修
『図説中国文明史 3』
伯仲編著
『図説 中国の伝統武器』
林巳奈夫『中国古代の生活史』
戸川芳郎監修
『全訳 漢辞海』第4版